Cover Story

デイトリッパー

ドラマティックな映画への出演が目立ったナスターシャ・キンスキーはワーナーブラーザーズのコメディ『ファーザーズ・デイ』でコメディに挑戦している。

テキスト:ブリジット・バーン (翻訳:タドコロ ノリアキ)

Cover Story    「ロビン(・ウィリアムス)があんまり私を笑わせるから監督(アイバン・ライトマン)が怒り出しちゃたのね。それで、私が爆笑しちゃってちゃんと演技ができなくなると彼は──これって才能のある俳優にしかできないことだと思うけど──ちょっと間を置いて、落ち着かせて、そのまま演技を続行できるようにしてくれたの」
ナスターシャ・キンスキーはワーナーブラザーズによるファミリーコメディ「ファーザーズ・デイ」(5月9日一斉公開)での仕事をこう語る。しかしキンスキーにとって真面目な表情を崩さないでいるのはフツーのコメディの倍は難しいことだっただろう──もう一人の共演者はコメディアンのビリー・クリスタルなのだから。「基本的に撮影現場は笑いが絶えなかったの、ロビンや、もちろんビリーのおかげね」と彼女は言う。
キンスキーは撮影の間中そのような笑いに包まれたことをとても幸せに感じていたという。この時代のこの世界では幸福な場所ばかりではないからだ。「ときどき私は笑えなくなってしまう、笑うことを忘れちゃうっていうか。人がよく笑う時っていうのは、面白いと思っているそのことに心も体も全部支配されている。たくさん笑えば病気にもならないっていうけど、それって本当だと思う」と彼女は言う。ベルリン生まれのキンスキーは十代にして女優として仕事を始め、たった19歳で有名人になってしまったのだ。彼女の人生を変えたのは1979年、トマス・ハーディの悲劇「ダーバビル家のテス」をロマン・ポランスキーの解釈で映画化した「テス」の悲劇のヒロインだった。 ベルリン生まれのキンスキーは十代にして女優として仕事を始め、たった19歳で有名人になってしまったのだ。彼女の人生を変えたのは1979年、トマス・ハーディの悲劇「ダーバビル家のテス」をロマン・ポランスキーの解釈で映画化した「テス」の悲劇のヒロインだった。
現代の若者でさえもその美貌を羨むという(彼女はロレアルのコマーシャルにも出ている)キンスキーは3人(12歳の男の子アリョーシャと、2人の女の子、11歳のソーニャと4歳のケーニャ)の子を持つ母親でもある。ハリウッドスターであることとは関係なく、彼女はフツーの母親と同じように朝を過ごし、子供達を学校に送りだす。彼女の話はビバリーヒルズのケーキ屋が少々の遅れでも真剣に謝ることにまで及んだ(ちなみに遅れるのはよくあることだそうだが)。キンスキーはひとつのことについてちょっと話し込みすぎたと笑って謝ったが、他のアメリカ人女優がアメリカ人なりにクールっぽく振る舞おうとするのとは明らかに違う、オープンでエモーショナルな面が垣間見られた。
    キンスキーは「家族の面倒をみる必要がある」ということを強調し、常にそれが最優先事項であることを認めつつも、しばらくハリウッドのスポットライトから外れて仕事ができるようになったことを幸せに思っている。『ファーザーズ・デイ』の後、彼女はニューラインシネマの『ワン・ナイト・スタンド』(監督は『リーヴィング・ラスヴェガス』のマイク・フィギス)への出演を控えていて、9月の終わり頃に公開予定だ。彼女はまたインディーズ映画『Somebody Is Waiting』に出演していて、ガブリエル・バーンとともに5人の子供の親を演じている。 Cover Story
   茶色の目、ブロンドヘアのこの女優は感情よりも事実について話すことに興味があり、ストーリーや登場人物についてこと細かく論じるのは気が進まない、とハッキリ言う。彼女は映画というものが観客に驚きを与えるべきだ、ということを信じているのだ。『ファーザーズ・デイ』でキンスキーは家出した十代の少年の母を演じていて、彼女は二人の「元彼」に自分の息子を探すのを手伝わせる戦略に打って出る。二人の本当の(?)父親が少年を探す過程で行き交い、どんなハチャメチャコメディが展開されるのか?
   キンスキーはこの役をオーディションで「超緊張」したという。すんなり彼女はオーディションにうかったが、ウィリアムズ(芸術家兼詩人役)とクリスタル(弁護士役)は二人とも「寛大で、仕事を愛していた」と彼女はいう。「彼らの頭の回転の速さといったら本当にすごくて、私は最後までリードできなかった。私が少し後ろへ下がってると、これまた頭の回転が速くて機知に富んだ監督とジョークが始まるの。私は呆気にとられちゃった、いい意味でね」。キンスキーは息子を探すためなら何でもする母親というものが最も簡単な種類の役柄だったことを付け加えた。
   I「ワン・ナイト・スタンド」は5人の登場人物が繰り拡げる波乱のストーリーで、彼女はウェズリー・スナイプスやロバート・ダウニー・ジュニアと共演している。『リーヴィング・ラスヴェガス』の大ファンであるキンスキーは監督のマイク・フィッギスを評して「ほんとうにミュージシャンなひと。あなたも知ってるようなね」。そのミュージシャンとは彼女の小さい娘の父親、クインシー・ジョーンズにことだろうか。彼女はこの映画を「関係を深めること」「人を真実に向かわせる」──「正直になるまでの時間を無駄にしない方法」のための映画だという。
    彼女は『アギーレ 神の怒り』や『吸血鬼ノスフェラトゥ』で有名な俳優──クラウス・キンスキー──の娘であるが、キンスキーはそのことを売りにしてはこなかった。彼女の父親はまだ彼女が小さいころからほとんど一緒にいなかったからだ。「私はママに育てられたの。演技に関して私が本当に学んだことはほんのわずかよ。だって父は家を出たっきり忙しくて全然そばにいなかったんだもの」。しかしその後、ドイツ人の映画制作者ヴィム・ヴェンダースが彼のロード・ムービー第二弾『まわり道』に彼女を起用し、彼女の人生は変わる。
   「幸運だったわ、いろいろな理由からね。私の決して幸福とは言えない人生を可能性に満ちたものにしてくれたし、母と私の経済的な助けにもなったし」とキンスキーは言う。しかしこの37歳の女優は、若くして有名になった者へ降りかかるプレッシャーの重圧の存在も認めた。「私は最初、成功は当然だと思ってた。でも期待に応え続けるのは大変だし、私もそれはできなかった」とキンスキーはいう。ときどき、期待に応えられないプロジェクトというものが存在した。1982年のポール・シュレーダーによる『キャット・ピープル』のリメイク、同年のフランシス・フォード・コッポラによる『ワン・フロム・ザ・ハート』、1985年の『レボリューション』がそうだ。
    「前にTVで『キャット・ピープル』をやっていて、子供達がそれに気付いて叫んだの、『ママが裸になってるよ!』って。私はどうにか説明しようと『それじゃあ、猫は、ママが裸になるのを期待するのかしら?』って言ったんだけどね」キンスキーは笑って、子供達にはまだほとんど自分の映画を見せていないことを打ち明けた。 Cover Story
    しかしキンスキーは正しい選択もしてきた。ヴィム・ヴェンダースと再び組んだ1984年の『パリ、テキサス』と1993年の天使の物語『ファラウェイ・ソー・クロース!』だ。彼女は最近の作品選びにも希望を捨てていないことを強調する。「仕事が必要なの、私は本当にもっと上を目指したいと思っているし、私が12歳のときからファンでいていれる人たちがいるという事実のために正しいことをやらなきゃダメだと思っているからね。だから演技をしているときの私は幸せだし、それが小さな幸せでも、私がそこに真実を見い出し続ける限り、それはずっと変わらない」 「時間が過ぎるのは本当に速いし、私は子供たちもいて、彼らは私に長い時間を生きてきたんだなーということを実感させてくれる存在ではあるんだけど、私自身は全然成長してないなと思っちゃう。しばらく立ち止まったままだったていうか──私自身の意志とは逆にね。もっと成長したいと思っていたけど…私は美しく、意味のあるものに自分を捧げたいと思っていた。若いころの私はなんでも楽しかったし、あのころの気持ちは絶対に忘れないわ。あのころの自分を思い出すの」とキンスキーは言う。ほんの束の間、彼女と『ファラウェイ・ソー・クロース!』の登場人物がダブッて見えた。「まるで天使が舞い降りたみたいだ」。

『ファーザーズ・デイ』
主演:ロビン・ウィリアムス、ビリー・クリスタル、ナスターシャ・キンスキー
監督:アイバン・ライトマン
脚本:ババルー・マンデル、ローウェル・ガンツ
製作:アイバン・ライトマン、ジョエル・シルバー
コメディ/ワーナー・ブラザーズ/5月9日公開


記事原文

NASTASSJA KINSKI JP