ナスターシャ・キンスキーは脱線してしまうような語尾を延ばす感じの、何かへつらったような声で話す。吊るされたアホウドリが飛び立とうとするような、ミステリアスなほのめかし口調だ。ときどきそれは、なかば文章を読み上げるような、キッチンでレシピの内容をつぶやくような感じにもなる。いまは夜9時のロサンゼルス、そして一人の女優がフランス映画"A ton Image"について話そうとしている。この作品のポスターは、夫役のクリストファー・ランバートと写ったものと、魔法使いの見習いが彼のために生んだ赤ちゃん——クローンであり敵でもある——が写ったものとの2種類ある。「母性」という言葉は、彼女の好きな言葉になっている。現在43歳、ヴェンダースやポランスキーといった巨匠のミューズとして、男性を次々と魅了する女として、妖艶な匂いを放つ少女として、学生たちの部屋の壁をアヴェドンによるヌード写真で彩ったモデルとして、暖炉の前に集まる楽しみのような存在として、彼女は知られてきた。彼女の考えを間接的だと受け取るなら、それはいつも『生きがい』というテーマに行き着く。つまり、息子アリョーシャ(20歳)、娘のソーニャとケーニャ(18際と11歳)のことである。彼らにとっては、それはインクで出来た血のようなものだ。一人の悩める母親の告白。
ELLE. なぜこの役を受けたのですか?
NASTASSJA KINSKI. 最初は、リュック・ベッソンが私に声をかけてくれたからね。彼とは友達で、ときどき子供たちについて議論するの。彼は私に会って、この作品について話し、プロデュースをしたいんだと言ってきた。作品のテーマに興味を引かれたの。クローン人間についてはよく議論されているけど、クローン自身の視点や考え方っておざなりにされてきたでしょ? 監督が掲げた条件は「クローンはクローンと共存できない」ということだった。どちらも死に逝く運命なのよ、同じペルソナ同士が戦うことによってね。
ELLE. 母親と娘の問題がこの作品の核となっているようですが…。
N.K. とても特別な関係なの。ひょんなことから、それは複雑なものになってしまう。自分の娘が自立して、親から離れていってしまう瞬間が訪れる。酷い痛みを伴う瞬間ね。親というものは子供を守ること、子供のことを考えることが当たり前になっているからよ。母親として、母乳を与え、子供に必要なすべてを与えていたのに、ある日突然、世界で起こっているものよりリアルな戦争の最中に放り出されるの。でもそれは子離れというもののために必要な過程なのでしょうね。
ELLE. あなた自身のお母様との関係はどうだったのでしょう?
N.K. 母はとても若いとき——19歳で——私を生んだの。私以外に子供は作らなかった。母は私にとって全てだったし、母にとって娘の私はすべてだった。でも彼女は思春期の私のことを理解しようとしなかったの。私の場合は、会合に出かけるし、読書をするし、他の母親たちと話もする。自分の子供たちがどんな世界に生きているかを理解しようとするわけ。ところが私の母の場合、自分と娘の迎えた危機が他に例のないものだと思っていたのよ。母はそれが避けられない局面であるということを理解しようとしなかった。とても辛いことだったわ。私たちの関係は混迷を通り過ぎて恒久的な対立となってしまった。母は私を非難し続けた。母にそれをやめるよう思い切って言えるようになるのは、私自身が母親になるのを待つ必要があったわ。それが私の母なりの愛情表現法だったんだと思う。私の娘たちと一緒に提案したの、連絡を取り合おう、もっと近づこうとね。そこをうまく乗り越えられたら、お互いの信頼関係が戻ってくるでしょう、って。でも一番必要なことはある程度譲歩するってこと。大変なことよ。そうすることによって最近では恐怖に苛まれたり、危険に巻き込まれたりすることがたくさんあるでしょうから。
ELLE. あなたが恐れるものとは?
N.K. 悪魔が子供たちに乗り移る夢を見るの。いつもそのことを考えてしまう。牧師——私たちが信頼を寄せている人々が、実際には略奪者なんだという妄想に捕われたりもしたわ。子供をもつと、彼らに何かが危害を及ぼすという恐怖が消えることはない。子供たちは私が大げさすぎると言うけど、心配しすぎるくらいがちょうどいいのよ。小さいころ、よく危険な目にあったの…忘れられない思い出ね。今の世の中はますます荒れてきている。先日、誕生日を祝うために家の近くの公園に行ったの。治安が悪い区域で、パトカーをそこらじゅうで見かけたわ。子供が一人行方不明になったのよ。そんなことが自分の身にも起こったら、どうやって不安をかき消すっていうの? 他人が私をどう思おうと関係ないわ。心を打ち砕かれてしまうより、ただ心配するだけの方がよっぽどマシよ。
ELLE. あなたは12歳という若さで働き始めたんですよね…。
N.K. 素晴らしい人々と一緒に過ごす機会を得たのよ。全員というわけではないけど。ヴィム・ヴェンダース、ロマン・ポランスキーといった人たちね。彼らは私に早いうちから役者になるということが大変な仕事だということを教えてくれた。
ELLE. "Á ton image"の前にあなたはジョゼ・ダヤンの『危険な関係』に出演していますよね。なぜフランスでの仕事を始めたのですか?
N.K. 長い間ヨーロッパのエージェントに所属していなかったの。家庭があるから、旅行するのを避けていたしね。やっとあるエージェントと契約したと思ったら、ヨーロッパに戻れるのは子供の学校が休みの間だけという状況だった。今回の2作品はどちらも女性監督によるものだったの。私の娘たちも同行させることができたのよ。
ELLE. 40歳を超えると、ハリウッドでは役にありつくのが難しくなってくるのでしょうか?
N.K. なかなか見つけられないというのが現状ね。私たちは、非常に流れの速い、飽きっぽい若者とすぐ冷める情熱の世界に生きている人間なの。あなたの言うことは否定できないけれど、作品の中では母親、おばあちゃん、ベテランの専門家といった役柄が必ず必要とされるわ。どんな年代にも役はあるのよ。私のキャリアの中では決して楽な時期にあるとは言えないけれど、特別な時期ではあるかもしれない。海外の仕事に戻れないという、非常に難しい状態にあるのよ。
ELLE. あなたの子供たちは家に取り残されてもちゃんとやっているものですか?
N.K. なんとかね。まともなスケジュールのためにテレビの仕事をしたいなって思うことがときどきあるの。映画を撮るときは、人の一生の中の全盛期だけが切り取られて描かれるものよ。転機、それは繭のようなものね。私たちより上の年代の人たちは「自分たちが若い頃はいまの人みたいに恵まれてなかった」とか言うでしょ。ひどい言い草よ。その瞬間、瞬間というものはもう2度と訪れないものだわ。彼らは私をすっかり忘れてしまうけど、私はもう後戻りはできない。「Cheaper by the Dozen 1ダースなら安くなる」という映画を娘と観たばかりなのだけど、そこに出てくる両親は最後まで子供たちに自らを捧げることに命がけだった。涙が出たわ。
ELLE. 子供たちに与えたいと思うものは何ですか?
N.K. 私が彼らに与えたいのは些細なことよ。私はずっと他の家族が羨ましかった。遊牧民のような、放浪し続ける幼少時代を過ごしたから、どこかに根を下ろしたかった。あいにく、いつも自分と同じように努力しようとする人と一緒になれなかった、というのも現実なのだけど(注:アリョーシャとソーニャは映画製作者イブラヒム・ムッサとの子供、ケーニャは音楽家クインシー・ジョーンズとの間に生まれた娘である)。両親というものは一緒に子育てができるよう努力すべきね。
ELLE. お子さんは俳優という職業には興味を持たれているのですか?
N.K. 息子はFOXチャンネルの連続ドラマでパイロット版に出演したばかりよ。彼が得意なのはジム・キャリーばりのコメディなの。上の娘はとても才能のある画家ね。我が家は彼女の絵で埋め尽くされてるわ。本として公開する準備をしているところよ。素晴らしい作家でもあり、機会があればモデルもやるの。一番下の子は馬が大好き、動物好きなの。将来は医者になりたいと言っているわ。
ELLE. 一家の大黒柱としての責任が、あなたを経済的に苦しめたりするのでしょうか?
N.K. そうね、お金がないという状態は脅威よ。私が小さいころ、私の家族には何もなかった。母は自分と私が生きるために戦っていたの。それがトラウマになってるのね。いまは蓄えがあるからいつ仕事を放棄しても大丈夫なのだけど、私の中では決して不安感がなくなることはないの。私が一生懸命、時にがむしゃらに働くのはそのせいね。一時期、私がどんな仕事も引き受けてお金のために何でもやったせいで、私のイメージが悪くなってしまった。今までの私の人生ではかなり苦しい時期だったのだけど、私にはお金が必要だったの、たくさんのお金がね。それを後悔してはいないけど、私の女優としての評判は厳しいものになってしまった。
ELLE. どうやってその美しさを保っているのでしょうか?
N.K. 正直言って、大したことはしていないの。泳ぐのは大好きよ。あとは、娘との乗馬。家族で公園を延々と散歩したりもする。メイクを落とさずに眠りこけちゃう夜もよくあるわ。でも自分をケアするのはとても大切なことだと思う。そういうのが自分の価値を高めると思うわ。
N.K. あなたの怒りをかきたてるものは何でしょうか?
N.K. 戦争ね。リビングのテレビは朝から晩までCNNを流してるの。私の息子と同じぐらいの年の子たちが、それぞれの故郷に帰りたいと思いながら兵士として雇われ、バッグをかついで空港で向かうと、イラクからはもう帰って来れないということを告げられている。虐待を受ける捕虜たちの写真も見たわ…。あの兵士たちは気が狂ってしまったのかしら? 逆にいえば、どうしたら気が狂わないでいられるのかしら?
ELLE. それでは、あなたをハッピーにするものは?
N.K. 早起きすること、あとは全てのことに注意を傾けること。ベッドで少し眠るだけでも幸福を感じるわ。一緒の家に暮らしている子供たちが残してくれたメッセージを聞くこと。もし子供たちが電話をくれなかったら、こっちから電話攻撃をお見舞いするわ。彼らが小声で「えーと、ママ? えーと、どうしてる?」なんて言う前にね。それからやっと、私は自分の一日を始められるの。