ロードショー 1980年11月号
小森和子のワンダフル対談47

205ページ(120 Kb) 204ページ(108 Kb)
207ページ(116 Kb) 206ページ(117 Kb)

クリックすると拡大して表示します


先に小説の方を読んだの。
とてもすばらしかったわ
(場所は六本木のレストラン。ナスターシャといっしょに来日した『テス』の製作者クロード・ベリの夫人、アンヌ・クロード・ベリも同席して対談は始まった)

小森 最初に『テス』についてお話をしましょうね。おばちゃま、日本のファンはこの映画をとっても楽しみにしていると思うの。もちろん、原作は有名な小説で、作者のトーマス・ハーディが英国の偉大な小説家だってことは皆知ってると思うけど、それほど日本じゃ有名な小説っていうわけじゃなかったから、かえって映画には一段と興味がわくってところだと思うのよ。

ナスターシャ でもご存じかしら。この小説イギリスでだって大変だったの。ハーディがこれを書いてから20年間も、誰も認めてくれなかったのよ。20年もよ。今日もしも誰かが小説を書いて、誰も認めてくれなかったとしたら、作家はどうなるかしら? 大変なことだったと思うの。

小森 そんなエピソードがあったの。ところでこの映画は断りつきで「ポランスキーのテス」って題になってるそうだけど……。

ナスターシャ その通りです。

小森 つまり、彼のすばらしい想像力をもって原作の「テス」を彼なりに解釈したものっていうことなのね。

ナスターシャ そうです。それに何ていうか、彼の個人的(パーソナル)な感情が入ってると思います。

小森 ところで、おばちゃまが特に興味をもってうかがいたいのは、ナスターシャ・キンスキーさんご自身は、現代に生きているお嬢さんで、しかも物質的に恵まれて育ったんでしょう。でもテスは貧しい家に生まれて、彼女が誘惑された初めての男性と結ばれれば、豊かなくらしができたのに、テスは心の純潔の方を選んだのね。ここで皆、その生き方にショックを受けると思うの。だって現代の女の子たちってイージーなのが好きだし、貧しいのよりも裕福なのを選ぶみたいだから……。

ナスターシャ ええ。私が考えているのは、どうしてテスが放蕩青年アレックの所へ行ってしまったかというと、家族や小さい弟妹がいたせいだったと思うわ。もしも彼らがいなかったら、彼女は決してあんなことしなかったと思うの。

小森 一般にはまだ公開されていないけど、試写を見た人たちはほとんど、彼女自身が自分の人生を強く生きてゆこうとする姿勢に強い感動を受けたようです。あんまり、彼女のような女性は、現代じゃ見かけなくなったからなおさらだと思うの。

ナスターシャ ええ。私、彼女は人間(ヒューマン)であり、女性だったと思います。今は人間(ヒューマン)が人間(ヒューマン)じゃない時代みたい。

小森 じゃ、あなたがこの台本を受け取ったとき、すぐテスの生き方に共感、もしくは魅力を感じられたのね。

ナスターシャ はい。でも私、先に小説の方を読んだんです。それで全くすばらしいと思ったわ。それから台本をもらったの。物語の土台は同じだけど、内容は少し違ってました。

小森 それで、さっきのお話ですけど、ナスターシャちゃんは裕福なお育ちだったんでしょう?

ナスターシャ うーん。ちょっと違うの。お金持ちと貧乏といつもいっしょっていうくらしだったの。

小森 (驚いて)どういうこと、それは……。

ナスターシャ 例えばね。あるとき両親は大きな庭つきの家に住んでいたかと思うと、その次の週にはサンドイッチをみんなでカジリあっているっていうような……(笑)。

小森 まあ変化の連続(笑)。

ナスターシャ でもこのことはよかったと思ってるの。生きるってことに真剣になれるし、物を大切にし、感謝するってことを学んだと思っています。

小森 そうですとも。

ナスターシャ 幸せなことだったと思っています。

小森 お父さまよりお母さまのほうから、たくさんの影響を受けたと聞きましたが……。

ナスターシャ はい。そうです。

小森 お母さまも女優さんでいらしたの?

ナスターシャ その希望はあったらしいけど、女優よりも自由である個人であることを選んだようです。

小森 そう。それでナスターシャ、あなたは?

ナスターシャ (うっとりした感じで、ベリに向かって)小森さんが私の名前を呼んでくださるとき、何て素敵にいってくださるんでしょう。嬉しいわ。

ベリ 小森さん、お聞きになった?

小森 あら、ありがとう。だって、そりゃ、ビューティフルなお名前なんですもの。

ベリ 小森さんの発音の仕方ですわ。

ナスターシャ とても自然なの。本当の私の名前で呼んでくださるんですもの。ナスターシィアって。

ベリ フランス語ではちょっと語尾が強くなって……。

ナスターシャ ナスタージアっていうの。イタリア後では、ナスタアージなんて。ロシア語の名前だから、なかなかうまく発音されなくて……。

小森 とっても美しいお名前ね。

ナスターシャ 父がドストエフスキーの小説から、名前をとったらしいんです。

小森 そうなの。

ベリ 父親が彼女にそのように生きてもらいたいと思ったんですね。

小森 ロマンティックね。

ナスターシャ 父はロシア人ですから。(注・父は個性的な容貌の性格俳優クラウス・キンスキー)

小森 なるほどね。

ナスターシャ 私、キンスキーっていうのは本名じゃないんです。本名はマキシンスキー。でも長ったらしくて芸名に向かないから、短くキンスキーにしたんです。

小森 そうでしたの。それでもう一度『テス』の話にもどりますけど、あなたはまったく、その考え方から身のこなし、何から何までテスになり切っていたように見えましたよ。

ナスターシャ ええ、そうでした。私、これは役者が当然しなければならぬ義務だと思ってます。

小森 でも大変だったでしょ?

ナスターシャ いいえ。それほどでもなかった。何ていうのかしら。すっかり自分のプライベートなことから離れてしまっていたから、それほど難しくもなかったわ。夢中だったのかしら。

小森 ナスターシャ、あなた自身は、テスのようにあれほど愛に一途になれますか?

ナスターシャ そうありたいと望んでます。できるかどうかはわからないけれど、あれほどになれたら、しあわせだと思います。

小森 今までにそんな愛はみつけたことはないでしょうね。まだ若いものね。

ナスターシャ あんなに一途なのはまだありません。だって、そうでしょ。もしもあったとしたら、お仕事なんてとってもしてられないわ。

小森 (笑って)そう、そのとおりよね。

ナスターシャ ああ、でもそのときにいったいどうなるかわからないわ。なんとも保証できないわ。自分でも、まだ想像もつかないの。


ヌードがいやじゃなく脱ぐ
女優として見られたくない
小森 あなたの映画が日本で初めて公開されたのは、マルチェロ・マストロヤンニと共演した『今のままでいて』だけど、とても可愛らしかったわ。

ナスターシャ ありがとう。偉大な作品というわけではなかったけど、でもあれに出ていてよかったと思います。

小森 あなた、あの後でもう2度とヌードはイヤって言ったそうですね……。

ナスターシャ 私、あのときよく分からなかったの。子供だったから、ヌードになるってことが……。

小森 私はあの時はあれでよかったと思ってますけど。

ナスターシャ でも問題はね、映画じゃないの。ある国じゃ、わざわざヌードの部分だけをブロマイドにして出しちゃったとかいうことがあって、脱ぐ女優ってイメージが知らないうちにひろまったことよ。これは困ります。

小森 なるほどね。

ナスターシャ 映画の中ならストーリーとして、必然性のなりゆきとして展開されるから構わないんですけれど、ただそのシーンだけを取り出して見られると……。

小森 そりゃ、もっともなお話よね。女優としてのイメージがまるで違っちゃいますものね。

ナスターシャ でしょう?

小森 話は変わるけど、カトリーヌ・ドヌーブと親しいんですって?

ナスターシャ ええ、とってもいいお友だち。彼女はほんとにすばらしい人です。

小森 どういう点で特に?

ナスターシャ 時々、彼女は冷たい人とかっていわれてるけど、決してそんなことはないのよ。本当に心が温かくって、人生にもすべてに積極的です。

小森 まあ、そうかしら(おばちゃま、いささか意外な感動をうけた様子)

ナスターシャ 私いつもおかしなことだと思っているの。どうしてあんなにいい人が、よく人にその良さを知られていないのかって……。

小森 人間って、その時どきの心境で変わりますものね。(ここでおばちゃまサシミをすすめ、彼女の注文のゴハンと味噌汁をオーダー、うまそうにゴハンをバクバク。ナスターシャが器用にハシを使うのを見て……)

ナスターシャ これにはね、父との思い出があるの。ちょっとおかしいんだけど(笑い出す)。

小森 聞かせてちょうだい。

ナスターシャ あのね、4歳の時に香港にちょっと住んでたの。その時おハシが全然使えなくって、父がすごく熱心に教えてくれたんだけど、その教えかたが激しくて激しくて。叩かれたりはもちろんしなかったけど、大声で「やってごらん、さあ、さあ」って。家中があの声で振動したくらい。

小森 まあ、そんなに(笑)。

ナスターシャ 私は泣くは父は怒るは、何ヶ月もかかってスパルタ式で覚えたのよ(笑)。

小森 じゃ、4歳の時は香港にいらしたのね。お父さま、お母さまとごいっしょに?

ナスターシャ ええ。その頃、香港で盲腸も取ったわ。


ポランスキーは、不思議な
能力の持ち主。素敵な人です
小森 まあ、いろんな思い出があるのね。それでお父さまとお母さまが離婚してからヨーロッパに行ったの?

ナスターシャ そう。ドイツ、イギリス、フランス、南アメリカ、イタリアへも。

小森 まあ、すごい。でも、どうしてそんなに?

ナスターシャ 母の恋人が各国を旅行しなくちゃならない仕事を持っていたので、そういうことになったの。私はいつも母といっしょでしたから。

小森 なるほど。それであなたは英語にフランス語、ドイツ語にイタリア語まで話せるようになったのね。

ナスターシャ そうね。

小森 聞いているだけで? それとも、いちいち学校に行って?

ナスターシャ 聞くことによってですけど、何ていったらいいかしら、一度その土地に行けば、その国の言葉で物を言わなきゃならなかったんです。おわかりになるでしょう?

小森 ええ。でも感心しちゃうわ、まったく。お小さいときは、あっちの国、こっちの国で大変だったでしょうけど、あなたにとっちゃむしろラッキーだったのね。

ナスターシャ ええ、今はラッキーだったと思うわ。

ベリ 子供は7歳に達していれば、習った言葉を忘れないものですわ。それ以前では忘れてしまいますけど。ですから彼女がいうように柔軟性も養われるし、音楽やら文化の適応もできるんですね。

小森 言葉も同じなんですね。ナスターシャ、女優として大切な3つのことってお聞きになったことがある? 運と才能、それに忍耐。

ナスターシャ 忍耐、これが一番よ。

ベリ パッション(情熱)もね。

ナスターシャ ええ、情熱と忍耐。忍耐は私にとっても大切だけど、情熱がないと機械じかけのようになってしまうわ。

小森 まさにそうね。

ナスターシャ それにプロとしての職業意識。

小森 じゃ全部で5つね(笑)。ところでナスターシャ、あなたが女優になろうとしたのは、お母さまの影響があったせい? それともテレビや映画をみて、やりたいなあと思ったの?

ナスターシャ 誰の影響でもないの。まったく自然に情熱がわいてきたの。13才のときに初めて映画に出て、自分で気に入りました。でもすぐその後、ダンサーやらカメラマン、絵描きだのいろんなものになりたい時期があって、それから女優になりたいという気持ちが次第にふくらんできました。そしてついに女優になろうと思ったんです。

小森 そうだったの。

ナスターシャ これが私の生涯の仕事だと思ってます。

小森 ところで、あなたが一番気に入ってる俳優さんは誰?

ナスターシャ ロミー・シュナイダーとか、リブ・ウルマン。あっ、男性のこと?

小森 ええ、それも聞かせて。

ナスターシャ アル・パシーノ。

小森 ああ素敵!

ナスターシャ 小森さんもお好きなの?

小森 ええ、大ファンよ。ポランスキーのことについてうかがいたいのだけど、ポランスキーはテスを奥さんのシャロン・テートにやらせたかったけれど、不幸にも亡くなってしまったので、あなたに特別に出演してほしいと頼んだそうね。

ナスターシャ はい。そうです。

小森 彼との出会いはどんなことから始まったの?

ナスターシャ 母と彼が友達でしたし、そのとき舞台の仕事があって、彼はスチール写真の撮影をしてました。

小森 そうだったの。

ナスターシャ それからも時々会う機会がありましたけど、突然、今回の話が持ちこまれて全く信じられない気持ちでした。

小森 そう、で、そのとき何才だったの?

ナスターシャ 14才でした。

小森 じゃ、そのときにすっかりあなたの魅力にとりつかれたのね、彼は確か5年前に『チャイナ・タウン』を撮ったんでしたね。

ナスターシャ とてもよかったわ。

小森 そのとき日本にいらして、テレビのインタビュー番組でごいっしょしたことがあるのよ。彼は頭脳明せきで、そしてユーモアたっぷりな才人…。

ナスターシャ そうなんです。彼はまったく本当に素敵な人で、あのユーモアのセンスにはかないません。

ベリ 彼は極東(ファー・イースト)にとっぷりつかっちゃっていましてね。特にタイが気に入っているらしく、たったの2ヶ月でタイ語を完全にマスターしてしまったんですよ。

ナスターシャ それは知らなかったわ。彼は不思議な能力の持ち主なの。どこに行っても、ちょっとの間にそこの人々のメンタリティーを把握してしまって、彼らが何をいいたいか理解してしまうんです。

小森 まあ、すごい人ね。

ナスターシャ そう、大変な人です。6カ国語も話しますし。


ボーイフレンドはひとりだけ。
名前はいえません
小森 次回作はコッポラ製作・監督の『ワン・フロム・ザ・ハート』でしたね。どんな役をなさるの?

ナスターシャ ごめんなさい。まだお話しできないんです。

小森 そう。ではいつ撮影に入るの?

ナスターシャ 10月の予定です。

ベリ 彼女の自由にする予定なんです。

小森 といいますと?

ベリ 新しい映画づくりの方法で、ひとりひとりのパーソナル・イメージに合わせて、脚本を書いてゆくのです。ですからまだ本はできてなくて、彼女と接しながらインスピレーションをわかせて書くんです。

小森 オリジナルですか、コッポラの。

ナスターシャ ええと、アーミン・バーンスタインという人の書いたもので、コッポラがそれをモトに脚本を作るそうです。

ベリ オリジナルという意味ではバーンスタインのオリジナル・スクリプトであって、本からではありません。

小森 それで共演なさるのは?

ナスターシャ テリー・ガー、それにブロードウェイの大スター、ラウ・ジュリア、フレデリック・フォレストです。

小森 フレデリック・フォレストって、あの『ローズ』の?

ナスターシャ そうそう。彼はすごい人なの。その役によって体つきまで違ってしまうのよ。

小森 ふうん。さて、最後にひとつだけ聞かせて。今、特別なボーイフレンドはいますか?

ナスターシャ (オーッと顔を手でおおって)私が知らない人まで含めて、世の中ではずいぶんたくさんのボーイフレンドを作ってくれたようだけど……。でもひとりだけいます。それが誰か、名前をいうことはできません。

小森 (ニコニコ笑って)そう。彼、俳優さん?

ナスターシャ いいえ彼は全然芸能界とは関係ない人。

小森 グッド!(一同大笑い)。おばちゃまの時代と違って……実は私、年とってるのよ。

ベリ ウソでしょう。とってもそんな風には見えないわ。

ナスターシャ ええ、お若いわ。

ベリ “若く”なるために、長い年月がかかるのよ。それを、小森さんが証明してらっしゃるわ。

小森 まあ、ありがとう。それでね、今の人は結婚よりも愛だけがっていう考え方を持っているようだけど、ナスターシャ、あなたの考えはどんな? 真剣に恋しちゃったら?

ナスターシャ 結婚したいわ。だって子供が欲しいんですもの。

<オバチャマ独白>

映画『テス』で見る感じと、明朗カッタツで茶目っけもたっぷり。なんせカワユイ現代娘のナスターシャは、まったくオドロキ! 彼女がいう『テス』で「女優に開眼した」を、こちらも実感! あらためてその演技力に感服!

でもしゃぶしゃぶ(たいがいの外人スターが好き)と思って、せっかく当編集部が用意したのに「スシ、スシ」が好物とはコマッタ! けどサシミとゴハン、それに海草と野菜をモリモリ。

コレ、ホント美容食と、彼女で確信シマシタ。

back to article index