スクリーン 1983年1月号
マルセーユ発 現地取材独占インタビュー

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久しぶりのフランス映画に主演の
ナスターシャ・キンスキーを
南仏ロケ地直撃訪問

クリスチャン・ディオール広報マネージャー 谷口久美

まさに欧米をかけめぐる忙しさの売れっ子ナスターシャにとって、この『みぞの中の月』は「テス」以来のフランス映画出演とあって大ハリキリ。ロケ撮影の追い込みがまっ盛りのマルセーユで、仕事のことからおしゃれまでなんでも聞いちゃったいきいきインタビューをプレゼントしよう。

南仏特有の真青な海、そしてまぶしい太陽の光線や花の香りに、まだ夏のバカンスの余韻が残るここマルセーユで、ナスターシャ・キンスキーの新作「みぞの中の月」のロケーション撮影が行われている。

監督は、処女作「わたしのディーバ」で4つのセザール賞を獲得したジャン・ジャック・ベネックスで彼にとってこれが2作目になる。私は昨年日本で開催されたフランス映画祭で、来日したベネックス監督に会い、今度の作品でナスターシャ・キンスキーにクリスチャン・ディオールの衣装を着せることを提案した。それがさっそく実現したわけなのだが、選ばれたオートクチュールは赤、白、黒、オフホワイトの4点で、いずれもビーズ刺しゅうやレースがはめこまれたフェミニンなドレスばかりである。私はこれまでに何度か衣裳合わせや撮影現場にも立会ったりしてすっかりナスターシャとも親しくなった。

ヨットハーバーを見おろすホテルへロケ隊一行がこの日の撮影を終えて、帰って来たのは夕陽がすっかり沈んだ頃だった。さっそくナスターシャ・キンスキーがくつろいだひとときをとらえてインタビューを始める。


いまフランスで最高のドパルデューと
共演できてうれしい!
まずこの映画への出演のきっかけからきいてみよう。

 いつどんなふうにしてこの作品の出演が決まったの?

 2月末、パリで発表されたセザール賞のジャン・ジャック・ベネックスから、彼の第2作「みぞの中の月」に出演しないかと誘われたの。相手役はジェラール・ドパルデューだと聞かされたの。彼はフランスで最高の俳優でしょ、以前から共演したいと思っていたから、とっても嬉しかった。翌日、早速、シャンゼリゼで上映されている「私のディーバ」を見たわ。さすがセザール賞をとった映画だと思った。映画館を出てからも頭がボーっとしてた。それでこんな監督の映画に、ジェラールと共演できるなんて夢のようだと思ったわ。早く契約を交わしてほしいと思った位よ。

 女優には好きでなったの? お父さんの関係があったからなの?

 最初は何となく映画に入った。もちろんママに相談はしたけど、パパとは全く関係ないの。私が本当に女優になる決心をしたのは、ロマン・ポランスキーに巡りあった時だった。彼に勧められて、リー・ストラスバーグのアクターズ・スタジオに留学し、ポランスキーの監督する「テス」に出演したときから、私の女優としての、また女としての人生が開けたと言えるわ。彼にすべてじゃないけど負うところはすごく大きいと思う。

 “女優”業の魅力は?

 現実の世界から脱出できること、また、いろんな女を表現することができるから。たとえば、今度の映画の中で、ジェラールとマルセーユの港町で月の光を一杯うけて愛の言葉を交すなんて、実際そんなチャンスはめったにないですもの。


心配症なので撮影中はいつも
とっても神経質になってしまう
 毎晩撮影の終わった後は何をしているの?

 私は仕事中、すべてを打ちこんでやるほうだから、撮影が終わるとすごく疲労を感じてしまう。ローマの時は毎日仕事が終わると、すぐにローマ郊外にプロダクションが借りていた別荘にもどり、プールで泳いでから自分で簡単なお料理を作ってた。お料理もストレス解消の一つなの。ここマルセーユでは、ホテルで夕食をとることが多く、町のレストランはほとんど行かないわ。監督のジャン・ジャックやジェラールや、プロデューサーのリーズ、ロスから取材に来ているカメラマンとか、気の合った人達と時には一緒に食事をする。でも話題は仕事ばかりになっちゃって……。

 撮影の入っている期間は普段のあなたとちがいますか?

 撮影中は役になりきっているから普段とはちがうと思うわ。やはり演技に対して自分でなかなか満足することができない。監督がすばらしいと言ってくれているのに、私のほうはまだ不満だったりするの。相手役のジェラールにも迷惑かけているし、監督を怒らせたりしてしまうことになるんだけど、私はすごい心配症なうえ、とっても神経質なのよね。でも毎日、ラッシュ見る度に、やっぱり監督が言ってたようにすばらしいってことよくわかるんだけど、翌日になるとまた心配になるのね。この性格はそう簡単には直らないでしょうね。

 相手役のジェラール・ドパルデューをどう思う?

 さすがフランスのトップ・アクターの貫禄充分ね。彼の優しさ、気の配り方、演技の余裕の大きさが、私をどれだけ勇気づけてくれたことでしょう。

 監督のジャン・ジャック・ベネックスはどんな人?

 ジェニアル!(天才的)私はロマン・ポランスキーやコポラのような巨匠たちと仕事をしてきたけど、ジャン・ジャックも彼等と同じランクに入る監督よ。すごく尊敬している。あんなに頭の回転の早い人は珍しい。彼が話しはじめると、みんな彼にひきこまれてしまうのね。ステキな人。

 今までで最も影響を受けた監督は?

 一番印象に強く残っているのは、もちろんロマン・ポランスキー。彼とは「テス」の撮影に入るまえからよく知っていたんだけど、何しろ彼は大監督だし、「テス」は大型の映画だし、私は名もないただの女優のかけ出し。こわくって不安が一杯だった。お互いにあまり言葉を交わさなくてもいいくらいに、よく気心はわかっていたけど、緊張の連続だった。彼は独裁者といわれる程、個性の強い人だった。私にもすごくきびしかった。私はそういう監督のほうが好きなの。ジャン・ジャック・ベネックスもそうよ。言うべきときは私に容赦しない。ローマでもマルセーユでも、私が自己嫌悪におちいっているとよくどなられた。私にはそういう監督が必要なのね。そう強い人、男らしい人がいい。


豪華なドレスはやっぱり女だから
とてもいい気持ちよ
 ところでどんなファッションが好き?

 パンツルックも、ナイーブなドレスも何でも好きなものは着ちゃう方ね。だから特にどのタイプのスタイルとか、どのブランドでなきゃいやだってことはないの。今回の映画の中では、ディオールのオートクチュールの作品から選ばれたものだけど、刺しゅうやビーズがすごく豪華なドレスばかりで、やっぱり女だからいい気持ちよ。今一番気にいっているのはディオールのブティックで買ったベージュの薄手の秋用のコート。おしゃれは好きだけど、仕事の時間は着心地のよいラフなパンツルックがいいわ。

 好きな色は?

 白、ベージュ、薄紫のように淡いトーンが好き。

 メイキャップはいつもどんなことに心がけているの?

 私は素顔が好きだから、映画の撮影の時も、できるだけ自然さを出すようにメイキャップしてもらってるわ。

 ヘアーはどんなスタイルが好きなの?

 女っぽいイメージにするため、少し髪を伸ばしたの。あなたのように(私の髪をいじりながら)カーリーにしたいけど、私の髪はカールしてもすぐにペロッと伸びちゃうの。

──まだまだ聞きたいことはいっぱいあったが、夜もふけて来たので、明日の早朝からの撮影を考えてこのへんでインタビューをきり上げることにした。

美人女優より個性派女優が脚光を浴びる現在の映画界でナスターシャはその両面を備えた女優として貴重な存在と言えるだろう。彼女がこれからどのような型の女優に成長して行くか、またどのような人生を送っていくのか、私には大いに興味が持たれる。

なお、この映画は11月までに撮影を終了し、来年の3月末にはフランスとアメリカで封切られる予定である。

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