『ベルリン・天使の詩』で天使のダミエルは、空中ブランコのアーティストのマリオンに恋して人間と成った。彼の友人カシエルは、姿が見えぬまま少しだけ悲しい気持ちで一人取り残され、勝利の天使のモニュメントの肩に座って時のない永遠の流れに身を任せている。彼は人間を観察し続け、彼らの行動に付き合いながらも、沈黙の安心感を与え続けていた。
6年後、『時の翼にのって ファラウェイ・ソー・クロース』が出来上がる。ベルリンの壁は崩壊した。多くのものが揺れ、壊れ、以前とは違った形で適合している。カシエルはミハイル・ゴルバチョフの肩越しに彼の考えをこっそり盗み見る。時代は狂ってしまった。しかし、自分だけの永遠の時に身を置くカシエルには全てが判ってしまうだけで、想像することはけっして許されない。彼は一度でいいから、純粋に人間的な言葉だけでも口にしたいと思っている。が、彼は人間の人生にも歴史の流れにも口出しできないのだ。
カシエルのガールフレンドである天使ラファエラは、2人の間にあった信頼関係が弱まっているのを感じる。カシエルは天使でありたくないと思っている。向こう側の世界へ行けることを待ち望んでいるだけだ。
ある日、幼い少女ライザが、高層ビルのバルコニーからベルリンの街を楽しそうに眺めているのを、カシエルはいつものように見守っていた。その時、処女はふとバランスを崩し……落ちていく彼女をカシエルは抱きかかえ、死から救う。
この瞬間、彼にはまったく予期しなかった何かが起きた。自分が人間で在ることの変化に気づくのに時間はかからなかった。その時から、彼は他の人と同じように、傷つきやすく虚ろいやすい命に限りのある存在になる。これからは、彼は飛び回るかわりに歩かなければならない。そして歩けばつまづきも出てくる……。
カシエルは、ベルリンの街中で、叡知に溢れているものの、人間としては日常生活の経験が全く無い、無知な若き青年になっている自分に気付かされる。お金もなく、身分証もない男に何ができるのか? 彼は人間としての最初の夜を留置場で過ごすことになる。
それからまもなくカシエルを救ったのは、天使だった古き友達ダミエルだった。別の日、カシエルはダミエルのもとを訪ねる。ダミエルはピザ屋を経営しながら、マリオンと娘のドリアと幸せな生活を送っている。カシエルには、そんな落ち着いた生活は考えられなかった。……彼には何かが影を落としているかのように。
カシエルの影のように、気が付けば常に堕天使エミット・フレスティの姿が在った。エミットはラファエラにある日打ち明ける──人間になることを予定とされていなかったカシエルは長くは生きられないと──雲を欲するなら、風を忘れるわけには行かないと。エミットはカシエルの短い人生を具体化する天使でもあるのだ。
人生は思い通りにならないと予言者のようにカシエルを脅すエミットに対し、ラファエラはカシエルを助ける為、精一杯の事をしようとするが、カール・エンゲルとなったカシエルにはその守護天使の姿を見ることも、声を聞くこともできない。彼は仲間を求め、自分が天使だったころに出会った人々に接触しようとする。彼はフィリップ・ヴンター探偵に再会し、小さなライザとその母親のハンナ、さらに車の運転手として今世紀の歴史を見てきた老人コンラッドに出会う。トニーはフィリップ・ヴィンターを雇って過去に行方不明になった妹ハンナ・ベッカーを探している。
カシエルはベルリンの街を歩き回る。人間となってからほんの数日しかたっていないにもかかわらず、彼の人生は不幸なまでに複雑に絡み始めていた。
彼は自分の無力さに嘆き悲しむが、90年代のベルリンに舞い降りてきた不安定な天使はアレキサンダー広場で転倒するだけでは終わらない。彼の周りには、純粋では生きられなくなったこの時代の、無慈悲な現代人が徘徊する。しかし、一方で、さりげなくも彼を支えるルー・リードや、ピーター・フォークにも出会う。
結局、カシエルはトニー・ベイカーの仕事仲間として、彼に加わる。まるで時を生き急ぐように、なんとか自己を確立しようとするカシエルだが……。しかしカシエルは犯罪に手を染めるトニーの裏の顔を知ってしまうのだった。
その間、フィリップ・ヴィンターは、トニー・ベイカーの過去の秘密を探る。思い過去の歴史が現代に交錯する。
カシエルは良心の呵責を禁じ得なくなった。カシエルはある決心を心に固める。それは、カシエルが自ら求め得た命と自由を、危機に陥し入れるかもしれない。まるで、影から見つめ、全てのことの次第を察していたエミットが囁いたように。
ただ、始まりには、終わりがあり、そして混沌とした中からも、新たに生まれるものがある。天使ラファエラが見守る中に……。